カロッツェリアTS-V172Aを聴いた!

いやはや、いきなり6万円のスピーカーが激戦区になったものだ。2013年に入って間もなくダイヤトーンがDS-G20(63,000円)を発売し、欠品騒ぎが起きるほど大人気となったと思ったら、今度はカロッツェリアからTS-V172Aである。しかも価格は同じ63,000円(税込み)だから、この価格帯のスピーカーの購入を検討していた人は、大いに悩むことだろう。「どっちがいいの?」
結論から先にいうと、どっちもいい。音の傾向が違うから、両方を聴いてみて、好みに合うほうを選べばいい。それだけ。この2モデルなら、どっちを選んでもきっと満足する音で音楽が楽しめると思う。
新Vシリーズ、TS-V172Aは17cmセパレート2ウェイシステム
さて、新しいカロッツェリアVシリーズ、TS-V172Aである。カロッツェリアのスピーカー・ラインアップの中では、純正スピーカーと簡単に入れ替え可能なカスタムフィット(トレードイン)タイプの最上位モデルだ。
ウーファーの振動板はカーボンファイバーコーン
これまでのTS-V171Aの後継となるモデルだが、従来モデルとは成り立ちが違う。新Vシリーズの設計およびチューニングを担当したのは、カロッツェリアのフラッグシップ・スピーカー、RSシリーズを開発したチームの一人。ウーファーの振動板は、カーボン+樹脂と抄紙+樹脂の2層構造カーボンファイバーコーンだし、トゥイーターはサイズこそ2.5cmと小型化しているもののチタン製デュアルアークリング型の振動板を採用。またウーファーのフレームは独自の6本V字リブ構造と、RSスピーカーの技術を、この価格帯のスピーカーに落とし込んできたのだ。
RSスピーカーで開発した6本V字リブ構造のフレームを採用
実は、今回のフルモデルチェンジにあたり設計の自由度は高く、たとえばトゥイーターなんかは、従来を踏襲するチタンドーム型でもPRSスピーカーのようなソフトドーム型でも、今回採用したデュアルアークリング型でも自由に選べたという。そこで設計者に訪ねたところ、間髪入れず「デュアルアークリングでやりたい」という答えが返ってきたとのこと。そこからも、設計者の思い入れの深さが伝わってくるというものだ。
トゥイーターの振動板はチタン製デュアルアークリング型
音からもRSスピーカーのエッセンスが伝わってくる。一言でいえば高解像度でハイレスポンス。音が緻密で立ち上がりが折り目正しくキレキレ。だから音像の輪郭がくっきりと浮かび上がってくる。ただし、よくありがちな、狭い音場の中にチマチマと音像が並ぶ感じではなく、音場は広く奥行もある。デモカーのイヴォークはトゥイーターがドアミラー裏のパネルに埋め込まれていてリスナーに近いためか、ヴォーカル音像が近くに聴こえる傾向があったが、迫ってくる感じの音は、僕は嫌いじゃない。
デモカーのイヴォークのウーファーはこのように装着されていた
このように新しいVシリーズの音は、かなりRSシリーズに近い。それも、とことんチューニングを追い込んで、やっと出た音。RSシリーズを装着したクルマを聴くと、高域がきつかったり、硬かったり、高密度すぎて息をつく隙がないようなクルマがわりと多いのだが、エージングが済み、これ以上は無理というほどチューニングを積めると、解像度とレスポンスがさらに高まるとともに、柔らかさを持ち合わせた耳あたりのいい音になる。実際、数は少ないがそんなクルマの音を体験したことがある。そんな耳あたりの心地いい音を、Vシリーズは最初から聴かせてくれるのだ。

しかも、音源は新しいサイバーナビで再生し、内蔵アンプで駆動した簡単なシステムである。もちろん、サイバーナビのサウンドクオリティが大幅に向上したおかげもあるだろう。こちらも音質チューニングは、カロッツェリアXやDEH-P01を担当したチームのエンジニアが責任者となっていて、サウンドマスタークロック回路をはじめ、上級オーディオで培った技術を盛り込んでおり、前モデルに比べると、音はかなり良くなっている印象だ。
付属ネットワークはバイアンプ接続に対応
ちなみに新Vシリーズの付属ネットワークはバイアンプ接続に対応。今回のデモカーはその機能を利用し、サイバーナビの4chアンプでそれぞれ、フロントの4個(左右ウーファー&左右トゥイーター)のスピーカーを駆動する接続方法をとっている。一般的なネットワークなら、1ch分のアンプでウーファーとトゥイーターを駆動するがバイアンプ接続なら1chのアンプでウーファー1個、トゥイーター1個を鳴らすため、単純にスピーカー1個につき高い出力を割り当てられるため制動力が高まるし、ウーファーとトゥイーターのタイムアライメントを個々に調整できるようになるというメリットも大きい。

それにしても、こんな音が簡単に得られるとは、である。もちろん従来のVシリーズも良かった。良くいうと、どんな音楽にも合う音。ただし口を悪くすると無難な音で、積極的に選ぶ理由を見つけづらかったのも事実である。しかし、新Vシリーズには積極的に選ぶ理由がある。この金額で、これだけ密度感が高く高域がスカッと抜けた音を再生できるスピーカーは、見当たらないからだ。

対してDS-G20のほうはというと、より色づけがない感じ。再生レンジが広いフルレンジスピーカーのように、低域から高域までつなぎ目ない自然な音が楽しめる。音を聴いた瞬間のインパクトは新Vシリーズに譲るが、ロングドライブでもリラックスして音楽に浸っていられる。冒頭でも言ったが、どちらを選ぶかはユーザーの好み次第だ。できればショップには、同じ条件で2台のスピーカーを聴き比べられる環境を整えてほしいものだ。

6万円というと、音の善し悪しに興味が無い人には「高い」と思うかもしれない。しかし、新サイバーナビにしてもダイヤトーン・サウンド・ナビにしても、音質がものすごく良くなっており、スピーカーを変えることでその能力を発揮できる。それは「これまで聴いていた音楽って、いったいなんだったの?」と思えるほど。違った世界が見えてくる。比較的簡単な取り付けで、そんな世界の頂点をかいま見ることができるのが、この2台のスピーカー。そんな世界を、ぜひ多くの人に味わってほしいものだ。

カロッツェリア