調べて試聴して悩んで分かった、10cmスピーカーの魅力

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 すっかりご無沙汰してしまったCar AV Reviewへの寄稿だが、今年は積極的に活動していこうと思う。まずは昨年夏から色々と仕込み続けている、スピーカーについての話をしよう。

155tsの製品チョイスで発見した、10cmスピーカーの秀作。

 我が155tsのダッシュボードには、現在JBLの10cm同軸ユニット、P462が収まっている。よく聴く音楽とのマッチングや試聴した際の音質的な好み、そしてちょいふるイタ車ならではの騒音レベルの高さから、最終的にはこのJBLをチョイスしたのだが、その話は別の機会に書かせていただくとして、10cmスピーカーも意外に捨てがたいな、と感じたのは事実だ。
 現在のカーオーディオ用スピーカーといえば、16cm、17cmが主流。しかもセパレート2ウェイが当たり前のようになってきており、純正スピーカーですらそういったシステムが多いのは皆さんもご存じの通り。10cmスピーカーはあくまでも少数派で、ラインナップも純正交換品、いわゆる「壊れたから交換する」機能パーツといったポジションの製品が多いが、実際にラインナップを調べ、そのうちいくつかを試聴してみると、なかなか侮れない製品が存在していたのは嬉しい驚きだった。そのなかでも特に印象に残ったのが、フォーカル100KRSとボストン・アコースティックスS45の2つだ。

フォーカルらしさがしっかりと感じられる、100KRS

 まずフォーカル100KRSは、10cmスピーカー=純正交換品=エントリーモデルという図式が成り立ってしまっている現状において、数少ない「上級モデル」と呼べる製品。そのため採用する素材やユニットの構造にもかなりのこだわりがあり、ウーファーはK2 POWERシリーズの代名詞というべきケブラーコーンにネオジウムマグネットを組み合わせ、トゥイーターは振動板素材をチタンからケブラーに変更した新開発の逆ドーム“TNKツィーター”を採用。そのレイアウトも一般的に多い同軸タイプではなく、トゥイーターとウーファーが分離したセパレートタイプとなっている。付属するパッシブネットワークは、当然のごとく音質を重視した本格的なもの。ちなみにパッシブネットワークが付属しない100KRS J-Activeという製品も、日本専用モデルとして用意されている。

 フォーカル100KRSを試聴して最初に驚いたのは、そのサウンド傾向が、他の口径違いK2 POWERシリーズと「まったく同じ」ことだ。当たり前と思うかもしれないが、一般的には口径が違うと同じシリーズでもキャラクターが多少変化してしまうことがある。そういったブレがほとんどない、K2 POWERシリーズならではの良さをしっかり感じさせてくれるのが、100KRS最大のメリットといえるだろう。

 実際のサウンド・キャラクターはというと、フォーカルらしいというべき、丁寧で緻密なイメージ。ウーファーが10cm口径のため、最低域への伸びは早めに諦めている傾向をもつが、中高域に関してはまったく不満なし。緻密でありながらも繊細になりすぎず、音が幾重にも重なり合い、それがすべ見渡せるかのような、深みと立体感のあるサウンドを楽しませてくれる。特に高域は、TNKトゥイーターにより伸びやかでありながらきつさがなく、とてもナチュラル。新K2 POWERシリーズらしい、先代とはまったくの別物といっていい音楽の印象強さだ。ミドル、いや高級スピーカーとして見てもしっかりと期待に応えてくれる、良質さだ。

 ただし低域方向への諦めが少々早過ぎるため、曲によっては3ウェイをミッドベースなしで聴いているようなバランスになってしまう時がある。その分中域の密度感は16cm 2ウェイよりも遙かに高いのだが、これ単体でシステムを完結させるには多少無理があるかも。素直にミッドベースを追加するか、もしくは良質なパワードサブウーファーが欲しいところだ。ただ、パワードサブウーファーをチョイスする場合は、この良質な中高域に見合った製品を選び出さなければならないため、ウェルバランスに至までは結構苦労しそう。上級モデルならではの、ある意味喜ばしい、手の抜けない付き合いとなりそうだ。
 とにかく、良質で魅力的な中高域を持ち合わせることは強調できる。10cm 2ウェイでも音質的な妥協はいっさいしたくない、上級システムを構築したいという人に勧めたい製品だ。

優等生で万能、ボストン・アコースティックスS45

 いっぽうのボストンS45は、同軸タイプのいわゆるエントリーモデル。EURO DIN規格に対応したトレードインタイプで、ダッシュボードなどに10cmスピーカーが配置された欧米車などには、比較的簡単に取り付けできそう(ただし奥行きが50mmあるため車種によっては装着時にアウターバッフルを必要になるかも)。価格も14490円と、純正交換品としても候補に挙げられそうな手軽さを持ち合わせている。
 外観は、コスト面の縛りもあってかあまり化粧されてはおらず、どちらかといえば質実剛健タイプ。とはいえユニークなデザインのトゥイーターガイド(イコライザーの役目も果たしていそう)などにボストンらしいアイデンティティを感じるし、大型マグネットの採用などから音質に対するこだわりも垣間見られる。
 さて、実際のサウンドはというと、これが拍子抜けするくらい見事なウェルバランスっぷり。偏見はいけないと思いつつ、口径サイズから低域に関してはそれほど期待していなかったのだが、量感も最低域までの延びも必要充分。まるでワンサイズ上のスピーカーでも聴いているのように、帯域バランスがよい。小口径ユニット特有のこぢんまり感からはかけ離れた、ごく自然なサウンドを楽しませてくれる。

 いっぽうの音色はというと、こちらはナチュラル派と呼びたくなるようなキャラクター。特定の楽器をフォーカスするでもなく、音源そのままを素直に再生してくれる。温度感がそれほど高くない代わりに、苦手な音楽ジャンルもない、オールラウンダーといった印象だ。
 まあ弱点を上げるとすれば、解像度の粗さくらいだろうか。特にトゥイーター帯域で、音楽の細かい部分まで再現できず、空間表現も甘いところが見られる。とはいえ、価格を考えれば充分以上。ジャンルを選ばない優等性っぷりや、使い方によってはサブウーファーなしでも完結できるバランスの良さなど、魅力は多々ある。初心者にもセカンドカーにも広くお勧めできる、使い勝手の良い製品といえるだろう。

 このように、10cmスピーカーにも良質な製品はいくつかある。けれども、現在主流の16~17cmセパレート2ウェイに比べれば、圧倒的に製品数が少ないのも事実。今回紹介したものを含めて、お気に入りの製品と出会えればよいが、もしそううまくはいかなかったら、パワードサブウーファーとの併用や3ウェイ化など、様々な可能性を含めシステムプランを検討してみよう。